比較憲法学から見た日本国憲法
- 作者: 辻村みよ子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2014/01/22
- メディア: 新書
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それから、「押し付け」憲法論議。これも本書に詳しいが、「押し付け」の経緯は複雑であり、今までの議論は雑なものが多すぎる。例えば、GHQ案は鈴木安蔵らの「憲法研究会」の草案の影響下にあったし、また日本側が「押し付け」憲法を受諾したのも、日本側の思惑もあった。そして、憲法施行の一ないし二年後の国民投票をGHQは勧告しているが、日本側はそれを行っていない。そしてさらに重要なのは、日本国憲法は仮に「押し付け」だとしても、第九条を除けば、現代的な観点から見ても、標準的で問題の少ない憲法だということである。というのは、自分はよく知らなかったのだが、現在の自民党草案があまりにもひどいからだ。何がひどいかというと、特に立憲主義に完全に逆行しているからである。ここでは、憲法は主権者たる国民が権力を制限するためのものではなく、国家が国民の統制を行うためのものだという発想を隠してすらいない。これは少なくとも先進国の憲法ではあり得ないことで、このようなものは一部の途上国にしか見られない。正直言って、この草案に改憲されるくらいなら、現行の「押し付け」憲法の方が遥かにマシである。
それから、「第九条」の問題であるが、これが実情に合わないという考え方は一定の合理性があると思う。しかし、「第九条」を「平和的生存権」の観点から見た場合、決して時代遅れどころか、現在のアクチュアルな議論に関係していることもまた明らかである。そもそも、憲法に平和条項を含む国は、これも決してめずらしいものでもなんでもない。むしろ、憲法に戦争状態の規定を含めるといった発想はあり得るだろう。
以上、一市民は本書をこう受け取りました。もちろん、色々な読み方があり得るだろう。自分としては、考えるきっかけになった点、有意義な読書だったと思う。
平和構築には事実を知れ
日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門 (朝日新書)
- 作者: 伊勢崎賢治
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2014/10/10
- メディア: 新書
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本書は徹底的に事実の書である。イデオロギー(右翼とか左翼とか)はまったく関係がない。とにかく日本人は、頭の中だけで考えられた(マスコミ、ネット等の垂れ流す)妄想だけに頼らないで、まず事実を知るべきだろう。例えば伊勢崎さんは、憲法第九条はいずれ改正されねばならないのかも知れないが、今のところ、紛争処理などに関して現実的に役に立つ(それは伊勢崎さんの体験である)ことを指摘している。そしてまた、日本は中東などでも「美しく誤解」されていて、これは失うには惜しい日本の財産になっているそうだ(それがなければ、アフガニスタンにおける武装解除の成功はあり得なかったそうである)。
それにしても、自分はイデオロギー的には左翼的なのであろうが、自衛隊は本当によくやっていると思う。驚くべきことに、自衛隊には「軍法」がないので、PKOで海外に派遣されても、隊員たちの自覚だけでやっているそうである。実際に何をやっているかというと、危険地帯でわざわざ目立つ格好をして、「日本の軍隊は人を殺しませんよ」ということをアピールしているというのだ。戦闘行為とはちがう、これはこれで大変な重圧であろう。自衛隊員は戦闘行為では死んでいないが、PKO活動から帰ってきた隊員たちには、相当の自殺者が出ているという。伊勢崎さんによれば、現在のPKO活動はどこでも非常に危険なものになっており、自衛隊が戦闘に巻き込まれていないのは幸運だという。
最近の中国との緊張関係で云えば、戦争になっても失うものは多くて尖閣諸島くらいのものであるし、それよりも、叡智を絞れば平和的に解決することはきっと可能だと、過去の各国の紛争を解説しながら述べる。キーワードは「ソフトボーダー」で、当事者双方が「痛み分け」を承認することにより、紛争を終わらせるやり方である。現実的には、それしか方法はない。事実としては、過去中国は尖閣諸島のソフトボーダー化を事実上容認してきたのであり、日本の民主党政権が無知によりそれを覆してしまったわけだが。
とにかく我々に足りないのは、まず事実を知ることであろう。本書は、きっとその目的に叶うものだと信じている。
ロボット研究はここまできているのか
記号創発ロボティクス 知能のメカニズム入門 (講談社選書メチエ)
- 作者: 谷口忠大
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/06/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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第三章「自ら言葉を学ぶ知能」は、ある意味第二章の延長線上にあって、予備知識なしに言語分析を可能にするシステムを扱っている。例えば、「不思議の国のアリス」の原文から単語の区切りの空白を抜いたものを与えて、分節化をほぼ可能にしている。これもすごい。これは、第四章「潜んでいる二重分節構造」につながり、言語の二重分節構造が、視覚などにも応用できるのではないかというもので、最初はミスリードかとも思われたが、一定の成果を収めているのには驚かされる。
第五章「ロボットは共感して対話する」というので、人間の曖昧さをロボットが察知するだけでなく、ロボットに曖昧に指示させて、それを人間が類推する、なんてことをやっているのもおもしろい。第六章「構成論的アプローチ」と第七章「記号創発システム論」は一種の弁明で、この著者らが研究している分野は、他からよほど「科学ではない」と云われているらしく、それらに対する弁明・反論になっている。まあなくてもよい部分かも知れないが、こうした科学論は自分は嫌いではない。まあ、本当に研究自体がおもしろいんだから、いいのではないの?
しかし、知らないことばかりで、勉強になったし、なにしろ刺激的だった。実際のモデル理論などもわかるともっと面白いのだろうが、まあそこまでできれば研究者になってしまうから、自分にはむずかしいだろうな。いや、こういうぶっ飛んだのが出てきて、若いのにすごいです。若い研究者ばんざい!
エピジェネティクスと獲得形質の遺伝
- 作者: 仲野徹
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2014/05/21
- メディア: 新書
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で、本書を読んでいってある程度理解できれば、著者が口を濁しているところがわかるかも知れない。それは、エピジェネティクスが一種の「獲得形質の遺伝」をもたらすのではないか、というものである。獲得形質の遺伝は現代の生物学では完全に否定されているので、ここはどうしても慎重にならざるを得ないのであろう。しかし、以前から「異端的」な研究者たちによって、獲得形質の遺伝を考えに入れないと説明しにくいような現象が見出されているので、それが可能になるかどうかは大問題である。自分個人もこのあたりは非常に興味深いものを感じるのであるが、一方では、受精卵においては殆どのDNAメチル化(すなわち獲得形質)が消去され、リプログラミングが生じるらしいから、簡単に断言できることではない。というか、まだ何が正しいのかははっきりしていないと云えるだろう。
それでも、遺伝には関係があるとも思われていなかったヒストンが、遺伝子発現に影響を与えるなど、とても面白い学問分野であることは間違いあるまい。本書が初学者には難解というのは、だから残念でないこともないのである。エピジェネティクスに関する他著も、読んでみたい気を起こさせる。
山本義隆三部作の完成を言祝ぐ
- 作者: 山本義隆
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2014/03/21
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第三巻の本書では、いよいよティコとケプラーの登場であり、読んでいて興奮させられた。ティコの観測技術の高さをいったい何がもたらしたのか、技術的なことまでバッチリ書かれているし、ケプラーに至っては、ケプラーの思考過程にまで踏み込み、現代的な数学表現まで与えてある。これを読むと、科学史上画期的な、惑星の軌道が楕円であることの発見(ケプラーの第一法則)には、エカントの物理的解釈がブレイクスルーになっていることがわかり、驚かされる。なるほど、従来の天文学でわかりにくかったエカントの導入に、かくして根拠を与えることが重要だったとは、後知恵ではよくわかるのだが。(ただし、巻末の数学的補遺も含め、数学的には高校数学をマスターしていればそれ以上の知識は必要ないが、ケプラーの思考過程は難解なので、自分もざっと目を通したに過ぎないことは断っておく。)そして、仮説を出して、実際の定量的な観測でそれを確認するという、まさしく物理学の誕生が、ここケプラーの段階で始まったことが宣言されるのだ。著者の言うとおり、影響が大きかったのは(実験を導入した)ガリレオの存在であることは、今でも変わりがないが、物理学の誕生に関するケプラーの貢献は、それでも画期的であったわけである。
なお、物理学一筋に見える著者の姿勢だが、本書を読んでいれば、著者の幅広い読書範囲は明らかではあるまいか。文化的背景に関する理解も、明示的でないだけで、自分はしばしば驚嘆させられた。自然と「教養」が滲み出ているのだ。幅広い読書を嘲笑すらする最近の書き手にはない、深い文化理解が見られる。著者は誇示しないが、例えば古典だって、文学すらも、著者は幅広く読んでいるわけですよ。それでこそ、第一級の思考力が引き立つのである。皆さん、是非この三部作を読んでください。
大江健三郎と「想像力」
- 作者: 大江健三郎,鶴見俊輔
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1986/06/09
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なお、どうでもいいことだが、鶴見俊輔氏の文庫解説は、文章を書くことを生業とされている方のものとしてどうなのだろうかと思った。氏は大変に頭のいい方だとは思うけれど、プロとしてこの程度の文章で許されるのであろうか。まあ、自分などがいうのも何であるが。
維新史を書き換える画期的な歴史書
- 作者: 家近良樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/02/11
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本書の特徴としては他にも、極端に攘夷を唱えた、孝明天皇の果たした役割の大きさを明るみに出している。また、これも最近のトレンドであるが、幕閣は必ずしも無能ではなかった。徳川慶喜もまた然りで、彼は非常にうまくやったのであり、鳥羽伏見の戦いは痛恨のミスであった。その他、記述の解像度がかつての歴史書を凌いでおり、維新史というものが至極複雑なことを教えてくれる(正直言って、自分にも細かいところはよくわからないくらい)。少なくとも、維新史というのは、素人が簡単に手を出せるようなものではないことが、よくわかった。いずれにせよ、画期的な本だという印象は強い。
- 作者: 家近良樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2002/01
- メディア: 新書
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