まさしくも「AIの衝撃」!
- 作者: 小林雅一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/03/20
- メディア: Kindle版
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AIの発展により、これまで人間にしか行えなかったことが機械化されようとしている。将棋の例は既に挙げたが、自動翻訳から技術知の自動化まで、いや作曲などの芸術活動ですら、AI化されつつある。「ディープ・ラーニング」というタームがあって、最近のAIの学習に関しては、その結果が人間の予測を超えるようなシステムが現実化してきている。プロ棋士の予想を超える好手を出力する将棋ソフトなど、その典型だ。我々は、既にコンピュータの出力が理解できなくなってきている。
もともとAIの発展は、じつは人間の脳をそのまま模してなされたものではない。それは一部だけのことで、基本的には数学理論である。しかし、最近では脳の模倣も進み、ニューロンの活動をハードウェア的に模倣するチップまで現実化しようとしている。これが何を生み出すかは、まだまったくわかっていないが。
日本はとてもAIの先進国とは云えないらしい。本書で頻出するのはグーグルを筆頭に、マイクロソフト、フェイスブックであり、人名もほぼ外国人の名で占められている。日本の学生は優秀であるらしいが、伸び悩むようだ。自分にはこれはよくわかる。AIなどの未知の分野の研究には、ドン・キホーテ的な強烈な世界観の先導が必要だからだ。「哲学」が必要だと云ってもいい。そこは日本人の苦手なところで、どうしても技術論以上のところへ行かない。これは国民性と言っていいだろう。もちろん、日本人にAI研究は不可能だと言いたいわけではない。このような思い込みを打破してくれる研究者の登場が期待される。
(なお、日本の企業に関しては、研究者以上に絶望的であるようだ。もちろん著者はそんなことは断言していないが、危機感は相当に感じられる。恐らく、日本の企業には、危機感すらあるまい。)
最後に。本書ではさほど強調されていないが、AIが革命をもたらすのは、恐らく(いや、まちがいなく)軍事分野である。いま軍事分野でいちばん課題になっているのが、戦争(戦闘)の無人化であり、AIの技術はまさしくそれにピンポイントであるからだ。実際、ドローンと小火器を組み合わせたような自動戦闘装置なら、現在の技術で簡単に作れるだろう(アニメの「攻殻機動隊」でバトーが対峙したような)。自動殺戮機械の登場は、近い未来のことであると考えて間違いないだろう。これが戦争をどう変えるのか、そしてそれは、人類の有り様にまで関ってくるかも知れない。念頭に置いておいて損はないことだと思う。
- 作者: 小林雅一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/03/19
- メディア: 新書
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『存在の耐えられない軽さ』以上のミラン・クンデラの傑作
- 作者: ミラン・クンデラ,西永良成
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2014/12/17
- メディア: 文庫
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その他の章も読み応えは充分であり、その体験をくぐり抜けたルドヴィークは、自分を陥れたゼマーネクに復讐しようとするのであるが、あとは読んでのお楽しみということにしたい。本書には自分にはよくわからないところも少なくなく、特にヤロスラフと「王様騎行」のエピソードは、本書の中で他と遊離している感がある。また、ルツィエとの再会も、プロットからすれば殆ど意味がない。けれども、それを除けば、小説の謎も失われてしまうようでもあるし、自分には何とも言えないのだが。なお、本書は1968年のソ連軍のチェコ侵攻以前のエピソードであり、ソ連軍の侵攻は、本書を政治的文脈で読むことを時代に強要してしまったところがあるらしい。しかし自分は、本書の文学的価値を強調したいと思う。これは本物の小説であると確信している。
蛇足であるが、本書は著者の手が全面的に入った、最後のフランス語版から翻訳されている。日本語として見る限り、立派な翻訳であると思う。岩波文庫に相応しい古典であろう。
(陳腐な表現だが)笙野頼子は過激だ!
- 作者: 笙野頼子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/04/26
- メディア: 単行本
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別の言い方をしてみると、著者の文学でいちばん危険なところは、その言葉が立ち上がってくるその地点の過激性であろう。ここから言葉が出てくるとき、著者は「発狂」スレスレになると云ってもいい。それは、言葉の意味(シニフィエ)から、近づいていくことはむずかしい。むしろ、音楽を聴くように、それを「体感」するように、読んでみる必要がある。
ちなみに、本書の小説部分はいま書いたとおりであるが、併録された「種明かし」みたいな文章は、じつに「フツー」の文章なので間違ってはいけない。これは著者が「頭でわかって」書いている文章である。小説部分の「深さ」はここにはないので、それは注意すべきであろう。ちなみに、自分はこの併録された文章をおもしろくは読むけれど、特に感心もしないことは断っておこう。著者が柄谷行人と吉本隆明を批判し、東浩紀を罵倒しようが、どうでもいいことである。その意味で、かかる著者の(「文学的」)努力は、特に同情できない。著者のすごいところは、こんなところにはないのである。
しかしこの三部作、どうして文庫化されないのか? これはおかしくないか。
平和構築には事実を知れ
日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門 (朝日新書)
- 作者: 伊勢崎賢治
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2014/10/10
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本書は徹底的に事実の書である。イデオロギー(右翼とか左翼とか)はまったく関係がない。とにかく日本人は、頭の中だけで考えられた(マスコミ、ネット等の垂れ流す)妄想だけに頼らないで、まず事実を知るべきだろう。例えば伊勢崎さんは、憲法第九条はいずれ改正されねばならないのかも知れないが、今のところ、紛争処理などに関して現実的に役に立つ(それは伊勢崎さんの体験である)ことを指摘している。そしてまた、日本は中東などでも「美しく誤解」されていて、これは失うには惜しい日本の財産になっているそうだ(それがなければ、アフガニスタンにおける武装解除の成功はあり得なかったそうである)。
それにしても、自分はイデオロギー的には左翼的なのであろうが、自衛隊は本当によくやっていると思う。驚くべきことに、自衛隊には「軍法」がないので、PKOで海外に派遣されても、隊員たちの自覚だけでやっているそうである。実際に何をやっているかというと、危険地帯でわざわざ目立つ格好をして、「日本の軍隊は人を殺しませんよ」ということをアピールしているというのだ。戦闘行為とはちがう、これはこれで大変な重圧であろう。自衛隊員は戦闘行為では死んでいないが、PKO活動から帰ってきた隊員たちには、相当の自殺者が出ているという。伊勢崎さんによれば、現在のPKO活動はどこでも非常に危険なものになっており、自衛隊が戦闘に巻き込まれていないのは幸運だという。
最近の中国との緊張関係で云えば、戦争になっても失うものは多くて尖閣諸島くらいのものであるし、それよりも、叡智を絞れば平和的に解決することはきっと可能だと、過去の各国の紛争を解説しながら述べる。キーワードは「ソフトボーダー」で、当事者双方が「痛み分け」を承認することにより、紛争を終わらせるやり方である。現実的には、それしか方法はない。事実としては、過去中国は尖閣諸島のソフトボーダー化を事実上容認してきたのであり、日本の民主党政権が無知によりそれを覆してしまったわけだが。
とにかく我々に足りないのは、まず事実を知ることであろう。本書は、きっとその目的に叶うものだと信じている。
ロボット研究はここまできているのか
記号創発ロボティクス 知能のメカニズム入門 (講談社選書メチエ)
- 作者: 谷口忠大
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/06/11
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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第三章「自ら言葉を学ぶ知能」は、ある意味第二章の延長線上にあって、予備知識なしに言語分析を可能にするシステムを扱っている。例えば、「不思議の国のアリス」の原文から単語の区切りの空白を抜いたものを与えて、分節化をほぼ可能にしている。これもすごい。これは、第四章「潜んでいる二重分節構造」につながり、言語の二重分節構造が、視覚などにも応用できるのではないかというもので、最初はミスリードかとも思われたが、一定の成果を収めているのには驚かされる。
第五章「ロボットは共感して対話する」というので、人間の曖昧さをロボットが察知するだけでなく、ロボットに曖昧に指示させて、それを人間が類推する、なんてことをやっているのもおもしろい。第六章「構成論的アプローチ」と第七章「記号創発システム論」は一種の弁明で、この著者らが研究している分野は、他からよほど「科学ではない」と云われているらしく、それらに対する弁明・反論になっている。まあなくてもよい部分かも知れないが、こうした科学論は自分は嫌いではない。まあ、本当に研究自体がおもしろいんだから、いいのではないの?
しかし、知らないことばかりで、勉強になったし、なにしろ刺激的だった。実際のモデル理論などもわかるともっと面白いのだろうが、まあそこまでできれば研究者になってしまうから、自分にはむずかしいだろうな。いや、こういうぶっ飛んだのが出てきて、若いのにすごいです。若い研究者ばんざい!
山本義隆三部作の完成を言祝ぐ
- 作者: 山本義隆
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2014/03/21
- メディア: 単行本
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第三巻の本書では、いよいよティコとケプラーの登場であり、読んでいて興奮させられた。ティコの観測技術の高さをいったい何がもたらしたのか、技術的なことまでバッチリ書かれているし、ケプラーに至っては、ケプラーの思考過程にまで踏み込み、現代的な数学表現まで与えてある。これを読むと、科学史上画期的な、惑星の軌道が楕円であることの発見(ケプラーの第一法則)には、エカントの物理的解釈がブレイクスルーになっていることがわかり、驚かされる。なるほど、従来の天文学でわかりにくかったエカントの導入に、かくして根拠を与えることが重要だったとは、後知恵ではよくわかるのだが。(ただし、巻末の数学的補遺も含め、数学的には高校数学をマスターしていればそれ以上の知識は必要ないが、ケプラーの思考過程は難解なので、自分もざっと目を通したに過ぎないことは断っておく。)そして、仮説を出して、実際の定量的な観測でそれを確認するという、まさしく物理学の誕生が、ここケプラーの段階で始まったことが宣言されるのだ。著者の言うとおり、影響が大きかったのは(実験を導入した)ガリレオの存在であることは、今でも変わりがないが、物理学の誕生に関するケプラーの貢献は、それでも画期的であったわけである。
なお、物理学一筋に見える著者の姿勢だが、本書を読んでいれば、著者の幅広い読書範囲は明らかではあるまいか。文化的背景に関する理解も、明示的でないだけで、自分はしばしば驚嘆させられた。自然と「教養」が滲み出ているのだ。幅広い読書を嘲笑すらする最近の書き手にはない、深い文化理解が見られる。著者は誇示しないが、例えば古典だって、文学すらも、著者は幅広く読んでいるわけですよ。それでこそ、第一級の思考力が引き立つのである。皆さん、是非この三部作を読んでください。
大江健三郎と「想像力」
- 作者: 大江健三郎,鶴見俊輔
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1986/06/09
- メディア: 文庫
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なお、どうでもいいことだが、鶴見俊輔氏の文庫解説は、文章を書くことを生業とされている方のものとしてどうなのだろうかと思った。氏は大変に頭のいい方だとは思うけれど、プロとしてこの程度の文章で許されるのであろうか。まあ、自分などがいうのも何であるが。