熊谷守一展を観て

岐阜県美術館に、熊谷守一展を観に行く。熊谷守一(1880-1977)は岐阜県出身で、我々からすれば郷里の画家ということになる。60歳近くまで、ゴッホを思わせるような荒々しいタッチで、どちらかといえば暗い色調の絵を描いているが、太平洋戦争中くらいから作風を変え、私生活の連続する不幸にもかかわらず、どことなく明るい、輪郭のある、独特のシンプルな画風になる。熊谷が本当の熊谷になるのはこの頃からだ。色彩は単純に見えるのであるが、たとえば露草の青などにはハッとさせられる美しさがある。ほとんど抽象的といいたくなるほどなのだが、やはり抽象ではない。動物(例えば猫)など単純な線で描かれながら、実に特徴をよく掴んでおり、思わず笑ってしまうようなユーモアさえ感じさせるのだ。そして、ちっとも押しつけがましくない。絵を描いているというより、絵と一体になっているような気すらする。そう、禅の境地、などという言葉がふと浮かんでくるくらいだ。それは措いても、まぎれもなく日本人の作品でありながら、世界的な普遍に確かに繋がっていると思わずにはいられなかった。それから、ちっとも古くさくない。古い日本家屋に置いてもいいし、また、今風のリビングにあってもまったく違和感がないだろう。それにしても、還暦あたりになって、これほどの転換を成し遂げるとは!