分子進化のほぼ中立説
分子進化のほぼ中立説―偶然と淘汰の進化モデル (ブルーバックス)
- 作者: 太田朋子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/05/21
- メディア: 新書
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著者はその木村の同僚で、「分子進化の中立説」では説明しきれなかった問題について、突然変異を淘汰から完全に切り離してしまうのではなく、これがごく弱い淘汰を受けるものとすると、「中立説」の難問が解消されることに気づき、これを「分子進化のほぼ中立説」とした。本書によればこれはアド・ホックな解決ではなさそうで、それどころか「中立説」とはかなり異なった部分も出てくるようである。とても興味深い仮説なのであるが、本書についてだけれども、入門書としてはちょっと難解すぎるのではないか。正直言って自分には、この仮説の成否を判断できるほど、内容をはっきりと理解できたとはいえない。例えばドリフトと淘汰の関係や、種内多型と種間分化の違いの本質など、もっと判りやすいとよかった。とはいっても、ロバストネスやエピジェネティクス(共に遺伝子型と表現型の齟齬の問題)についてなどは、新しい話題で面白い。
まあ、集団遺伝学は、生物学で最も数学化の進んだ分野であるが、進化というのはどうしても偶然が左右するところなので、数学的に証明して終わり、というわけにはいかないのが紛糾する原因である。その意味では、何となく経済学に似ているといえなくもない。
古い本ではあるが、「中立説」の提唱者である木村の著書『生物進化を考える』が、集団遺伝学の基礎知識を与えてくれるので、付言しておく。
- 作者: 木村資生
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1988/04/20
- メディア: 新書
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