ミケランジェリの愚演

Piano Concerto / Images

Piano Concerto / Images

ミケランジェリが生前、発売を許可しなかった演奏の正規盤*1であるが、一言でいって、ヒドい演奏である。特にシューマンがよくない。ピアノの音色が薄っぺらで、以前にあったコクがまったくなく、まるで無味無臭の蒸留水を飲まされているようなものだ。テンポは遅めで流れず、技巧の衰えがはっきりと感じられる。バレンボイムの指揮もミスマッチとしか言いようがなく、鈍重で野暮ったくて、まるでシューマンらしくない。はっきり言って、一箇所も魔術的だと感じられたところがなかった。演奏後のブラボーの嵐を聞くと、こっちがどうかしているのかとも思うが、しかたがない、これが正直な感想である。
 ドビュッシーはまだマシだが、これもかつての七十年代の録音に比べるべくもない。あの信じがたく多彩だった音色は、どこへいってしまったのだろうか。晩年のミケランジェリは衰えた。こう言うしかないと思う。本人が発売を許可しなかったのも、蓋し当然である。

*1:ドビュッシー(「映像」から四曲)は一九八二年、シューマン(ピアノ協奏曲)は一九八四年のライブ録音である。