天才の代償

世界音痴〔文庫〕 (小学館文庫)

世界音痴〔文庫〕 (小学館文庫)

穂村弘は最近発見した(遅きに失したといわれるかも知れないが)天才であるが、いや、本来著者は歌人なのにもかかわらず、詩集とこのエッセイ集を読んだだけで天才だと言い切るのであるが、天才の代償というのは壮絶なのだなあと思わずにはいられなかった。著者ははっきりとビョーキであり、本人もそれを深く悩んだ文章を書いているのであるが、読者はそれを読んで、アハハと笑わざるを得ないのである。著者の人生ダメぶりはまったく堂に入っており、笑いを通り越して、悲しくなってくるくらいだ。著者は38歳で独身、親と同居し、総務課長。行動力なし。そして「そんな私の楽しみは部屋の灯りを消してベッドに入り、チョコレート・バーをくわえてじっとしていることだ。口のなかにゆっくりと甘い味が広がって、幸福な気持ちになる。もぐもぐすると、手を使わなくてもチョコレート・バーは少しずつ口のなかに落ちてくる。重力があるからだ。」
「だが、もしも私が女の子だったら、流星群を観に連れて行ってくれる男を好きになると思う。どんなに寒くても、寝袋が窮屈でも、車が動かなくなってもかまわない。」「私が女の子だったら、暗闇で胸の上に手を組んだまま、チョコレート・バーをくわえてうっとりしている男は嫌だ。」
ああ!
ちゃんと歌集も買おう。