坂本龍一の語り下ろし自伝

音楽は自由にする

音楽は自由にする

坂本龍一の自伝であるが、これは万人に薦められるのか。もちろん自分には面白かった、というか、もう巻を措くことなく一気に読み切るほど熱中させられたのだが、それは自分が、二十年近い坂本ファンだからかも知れないのだ。たぶん、音楽好きなら興味をもってもらえるだろうし、坂本と同年代の人なら、その青春時代のすごし方(彼の十代は左翼で、意外とマッチョだ。後年の「教授」という綽名は、本人には不本意なのではないか)は気になるであろうか。しかし、自分には、客観的には語れない。
 彼の十代のすごし方を読んでいると、その濃密さにほとんど呆れざるを得ない。やはり世界的な人はちがうというのか、まあ時代のせいもあるが、吸収しているものが凄すぎる。音楽もそうだし、人も、思想も文化一般もそうだ。そして東京。比較するのも烏滸がましいが、自分の十代にないものばかりである。結局、帰着するものはいつもと同じだ。自分の貧しさは、これは一体なにか、ということである。自分の貧しさには、いつも驚かされるくらいだ。
 この本で光っているのは、だからやはり、YMO以前、坂本の二十代半ば(彼の無名時代)までだ。そこからは、我々のよく知っている坂本だといえるだろう。そうそう、個人的には山下達郎大滝詠一との出会いも興味深かった。自分のことをいうと、小学生で山下達郎の音楽を知ったのは、これは大きかったかも知れない。そんなことである。