音楽に正しい聴き方はあるのか

音楽の聴き方―聴く型と趣味を語る言葉 (中公新書)

音楽の聴き方―聴く型と趣味を語る言葉 (中公新書)

評判どおり、洵に刺激的な本だった。主にクラシック音楽を題材に、音楽を聴く姿勢について徹底的に論じている。名著と云っても、さほど過褒でもないかもしれない。ただ、著者の論がきわめて(殆ど反動的なまでに)オーソドックスなものであることは、指摘しておくべきであろう。音楽は単に感覚的なものではない、それは「読む」ものでもあり、(音楽の)「言葉」で構成されたものでもあると、著者は述べる。(そこに、演奏することについても聴くことについても、「文化」や「伝統」というものが現れてくる。)だから著者は、音楽を聴いたら積極的に言語化すべきであるとも云う。そこで、音楽を聴いて、沈黙すべきだと言った小林秀雄が非難されたりもするのだが、ここはボタンの掛け違いで、沈黙の果てににじみ出てくる言葉を重視した小林の言うことも、一理あるとは思うが。ただ、「無自覚なままに自分だけの文脈で聴かない」と著者がいうのは、これは賛成だ。人によって音楽の聴き方はさまざまであり、自分の聴き方だけが正しいとするのでは、確かにつまらない話だ。言葉によって他人の聴き方を想像し、自分を開いていく姿勢が、大切なのだと思う。