青柳いづみこの見事な音楽評論

音楽と文学の対位法 (中公文庫)

音楽と文学の対位法 (中公文庫)

洵におもしろい。優れた音楽家としての楽曲分析も(自分にはちょっと詳しすぎるが)興味深いし、また文学書を実によく読んでいる。「主要引用文献」を見ていただきたい。脱帽である。恐らく著者の音楽批評は、吉田秀和以来、最高のものだろう。そこで、吉田秀和を思いながら読むと、吉田のように、読んでいて猛烈に音楽が聴きたくなってくるのとはちょっと違って、青柳を読んでいると、個人的には、音楽の具体的な部分が頭の中で鳴るという感じである。特に、シューマンについて書かれたものを読んでいるときに、頭の中で「クライスレリアーナ」の楽句があざやかに響くのを感じた。まあそれはともかく、日本人のクラシック音楽の受容の成熟を示す、素晴しい仕事である。これからも注目の人だ。