経済問題とロジカル・シンキング

ダメな議論―論理思考で見抜く (ちくま新書)

ダメな議論―論理思考で見抜く (ちくま新書)

ネット上ではとても評価の高い本らしく、「ダメな議論」を見抜く、ハウ・ツー本のような体裁になっている。実際よく出来ているが、現実に本書の提言をすべて活用するには、日本人では相当頭のよい人でないとむずかしいようにも思える。というのは、結局本書で言っているのは、「概念をきちんと使って、論理的に考えよう」ということ以外ではないのであって、アメリカなどではこれは小さいときから徹底的に訓練されることだが、日本にはそういう習慣がないからだ。
 だから、繰り返すが、これはとてもいい本だと思う。それはそれとして、勝手に空想されてきたことを記しておくと、例えば「真に豊かな生活とは何だろう」というのは、学問的にはまったく曖昧で、経済の命題としてはナンセンス以外の何ものでもないというのは本書のいうとおりだと思うのだが、個人の自分への問いかけとしては、まったく無意味だとはいえない、というのがむずかしいところなのだと思う。そして、ポジティヴに考えれば、そこが経済学のおもしろいところだともいえよう。また、身も蓋もないことを言ってしまえば、著者が経済問題(本書で取り上げられる問題は、基本的にほとんど経済分野のものである)における「ダメな議論」を見抜けるのは、著者が優れた経済学者だということにあるに決っている。しっかりした議論をするのに、易しい道などないのだ。しかし、「王道」はある。本書は、それを指摘しているのだと思う。