生物の形態を決定するのは「袋」である
- 作者: 本多久夫
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2010/05/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 1人 クリック: 12回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
しかしまた、それはすべて遺伝子に拠るのでもなく、細胞がまるで意思があるかのように移動・変形もするのであり、その機構の説明として、物理学的にいって最小エネルギーとなる形態に落ち着く場合や、化学的な分子の存在密度によって細胞の形態・変形が決められる場合*1もあるという。これらは確かにありそうなことだ。一方、細胞自身の力学的構造に拠るものもある。上皮シートの細胞の六角形の構造などはそうだ。また、血管系が、ランダムなネットワークから分岐系に移るというのも面白い。
それから、本書の特徴として、形態が展開していく過程を、コンピューター・シミュレーションで再現させて見せているという点がある。個人的な話になるが、学生時代に分子生物学をやっている友人と、このコンピューターによる証明について語ったことがあるのだが、そのときは、安易だとしてあまり釈然としなかったように覚えている。眼の発生をシミュレートして、はい御仕舞、証明終というのはないなという感じだった。しかし、いまではそれが当り前のことになってしまったようだ。
本論とはちょっと関係が薄いが、人間の心臓が体軸に非対称的な位置にあるのはどうしてか、というのも興味深かった。生物内のアミノ酸は、光学異性体のL型の方しか存在していないことは有名だが、そのキラリティーによるものだというのだけれども、これは果して本当なのだろうか。もしD型アミノ酸から成る生物がいるとすれば、心臓は逆の位置にあるのだろうか。