橋本治の繊細極まりない短編集

つばめの来る日

つばめの来る日

それほど期待もせずに読んだのだが、繊細極まりない短編の数々に、感動させられた。市井の人々の日常を淡々と描いて、例えばモーパッサンよりも、チェーホフをちょっと思い出させるようなところがあるけれども、チェーホフほど視線が意地悪でない。家族や恋愛を題材にして、主人公がすべて男性だというのが一貫している。いや、こう簡単に述べてしまったが、男性を主人公にして繊細な物語を書くというのは、これはそう易しいことではないのではないか。ほとんど超絶技巧だと、言いたいくらいだ。主人公たちの年齢も、少年から思春期の青年、初老の男性まで、幅広い。これは言っておかなければならないが、ゲイが主人公である話が二篇あり、男女間の機微に劣らず、その心理がデリケートに取り扱われている。他人と違うということを自覚しなければならないからこそ、ゲイの心理は屈折もし、大胆にもなるということを、よく教えてくれている。繰り返すが、凡手の業ではない。