最底辺労働者について

ルポ 最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書)

ルポ 最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書)

本書を読んでよかったとつくづく思う。日本にも、ジョージ・オーウェルや、シモーヌ・ヴェイユのようなことをやってきた人がいるのだ。これはちょっと前の本だが、大阪・釜ヶ崎の日雇い労働者についての現状報告から、最底辺労働者を食い物にする貧困「ビジネス」の実態*1、野宿者(著者は理由があって、「ホームレス」の語をあまり使わない)の現実まで、下からの目線で問題を語っている。本書に拠れば、「大阪の野宿者のおかれている医療状況は海外の難民キャンプのかなり悪い状態に相当する」(p.117)そうである。本書を読んでいて思うのは、事実に対する「無知」は、ほとんど犯罪的になりうる、ということである。例えば、養老孟司は読書家で、なかなかの知識人だと思うのだが、『バカの壁』の中でこんなことを書いているというのだ。「働かなくても食えるという状態が発生してきた。ホームレスというのは典型的なそういう存在です」「ホームレスでも飢え死にしないような豊かな社会が実現した。(…)失業した人が飢え死にしているというなら問題です。でもホームレスはぴんぴんして生きている。下手をすれば糖尿病になっている人もいると聞きました」(p.118-9)。これのどこが間違っているが分らない人は、本書を読む必要があるだろう。エッジにこそ全体の本質が現れるとすれば、本書から日本の社会の本質を見抜くことも、可能なのではないだろうか。

*1:恐しいことに、これはふつう「犯罪者」とは見えない、例えば大和中央病院といったところがやっているのだ。野宿者は病院には「金になる」のである。野宿者一人が生活保護で入院すると、費用として病院側は、行政に年間約700万円を請求できるのである。大和中央病院は、これに加えて、病気にはまったく関係のない高価な薬を、救急車で運ばれてきた野宿者に大量に投与し、その野宿者は数時間後に心臓を破裂させて死亡した。