青柳いづみこの楽しいエッセー集

モノ書きピアニストはお尻が痛い (文春文庫)

モノ書きピアニストはお尻が痛い (文春文庫)

楽に読めるがおつゆたっぷり、という本が読みたかったのだが、これを選んで正解でした。クラシック音楽好きなら、きっと読んで楽しいエッセイ集だと思う。青柳さんのは、著書も演奏(CDで聴いたことがあるだけだが)もきちんとした個性がある。他人と違うというだけでは個性ではない。それが何かというのは明確には云えないが、確かに存在するものです。
 青柳さんはドビュッシー弾きなので、やはりドビュッシーに関する話題は、とりわけ参考になる。ドビュッシーの未完成曲についての話は、音楽家兼文筆家の面目躍如で、これは著者にしかできない類のものだ。オペラ「アッシャー家の崩壊」などは、ポオに音楽をつけて興味津々なのだが、断片的にでも聴けないものなのだろうか。
 ピアニストとしてのピアニスト評も面白い。ポリーニミケランジェリの比較など、我が意を得た。ミケランジェリラヴェル、早速聴いてみよう。
 批評家に対する怨みつらみは恐しい。日本のクラシック音楽の批評家は、本当にひどいことがよくわかるし、納得できる。音楽に限らず、日本の或る種の批評家は(中身もないのに)豪そうにしすぎる。対象を殺すためだけに書いているのでは、と疑いたくなるようなのが多い。
 まあそれはともかく、気楽に読めるけれども、音楽家としても文筆家としても、著者の実力を感じさせる一冊だ。もっと青柳さんの著書もCDも、手に入れたくなった。