知里幸恵の『アイヌ神謡集』

アイヌ神謡集 (岩波文庫)

アイヌ神謡集 (岩波文庫)

本書に収められているアイヌの神謡は、動物や神が自らを歌うという形を取っている。そして動物は、騙されたり、悪事の報いだったり、また哀れみなど、いろいろな状況で、大抵は死んでしまうことになっている。その時、おもしろいことに、動物は自らの死を知らず、どこかユーモラスなことに、「耳と耳のあいだに座る」のである。ここでは、動物も神も人間も、同じフィールド上に存在している。これはすぐ気づかれるように、宮沢賢治の場合と似ているが、それはまさしく、本質的な類似だと思われる。そしてその同化の具合は、(奇跡的ではあったにせよ)近代人だった賢治を、超えるほどのものである。
 そして、どうしても言っておかなければならないのは、知里幸恵の訳詩のすばらしさである。自分にはそれを形容する力はないが、天に愛されすぎたからこそ、あまりにも早く召されてしまったのかと、通俗的なことを思わず言ってしまいたくなる。「銀の滴降る降るまわりに、金の滴降る降るまわりに」飛ぶ梟、「石の中ちゃらちゃら/木片の中ちゃらちゃら」歩く狐。これだけで、アイヌの豊かさは明らかではあるまいか。