マレイ・ペライアの弾くブラームス

ブラームス:ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ

ブラームス:ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ

ブラームスを弾いたペライアの新譜は、素晴しいものだった。
 冒頭のヘンデル・ヴァリエーションズから聴かせる。この曲はそう好きでもなかったのだが、若々しくていい曲ではないか。ペライアは強烈な打鍵でインパクトを与えることもできるし、纏綿とした歌をうたうこともできる。構築力もある。(これらのことはすべての演奏について云える。)大好きなラプソディ第一番も、メリハリのついた演奏だ。旧録音よりもスケールが大きくなっている。ちょっとグールド晩年の録音が思い出されるくらいだ。
 ブラームス最晩年の小曲集も、無骨だが、じっくりと聴かせる。op.118-8 Romance の中間部など、羽毛のような軽いタッチで聴かせることもできるだろうに、ごつごつと弾いて、これがまたいいのだ。それにしても、このペライアの演奏を聴いていると、op.118もop.119も、中にはじつに深い感情をたたえた曲が少なからずあることに気づかされる。複雑な陰影をもって、ロマンティックではあるのだが、何らかの諦念が込められたかのような――これは若い頃の曲にはない。
 このディスクはたぶん此の後も聴くだろう。楽興の時だった。