青柳いづみこ『グレン・グールド』

グレン・グールド―未来のピアニスト

グレン・グールド―未来のピアニスト

読み始めてすぐに、これは傑作だろうというのはわかった。ものすごく面白い。しかし、戸惑ってしまう部分もあった。著者は優れたピアニストでもあるから、楽曲分析とグールドの解釈の細部において、微に入り細にわたって判断・解説してあるが、それが、素人たる自分の感覚とだいぶ違うのである。それに、グールドの音源について、使用されているのが正規盤だけでなく、むしろ非正規のライブ録音があまりに多い。非正規盤は、自分も誘惑されながら敢て購入してこなかったものである。もちろん全体像としてのグールドを描くなら、レコード・デヴュー以前の録音や非正規盤を使うのは当然でもあるだろうが。そして当然というだけでなく、ライブのグールドもまた、というよりも本書ではほとんどそれこそ、グールドの最重要部分である(いや、著者はそこまでは言っていないか)という論旨では、どう云ったものかわからなくなってしまった。とにかく著者は、グールドはクールなモダニストというのからは程遠い、そして一般に思われているそのグールド像は、グールド自身によって意図的に形成されたものである、という立場である。
 と、いろいろ思ったわけだが、あとがきで、「本書は、二〇〇九年春のある午後、音楽評論家の吉田秀和氏との語らいから生まれた」云々以下を読んで、いい加減な話だが、すべて納得してしまった。自分の思うところでは、著者は吉田氏以来最高の、音楽評論家でもある。そこでこのような繋がりがあったというだけで、ちょっと感動してしまった。それだから、このような重量級の著作になったのだろうかと、思われたりもする。
 それにしても、DVD盤を持っていないのはそのうち買うとして、非正規盤はどうするか。多分買うことになるのかな。