今の経済が知りたければ、こういう本を読む

新潮選書 日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学

新潮選書 日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学

山形浩生経済書セレクション(参照)に挙げられていた。偶々アピタくまざわ書店で見つけたので、読んでみたが、面白かった。まことしやかに流布する経済的俗説を、データで以て撫で斬りにしている。切れ味抜群。例えば、日本の人口が減ってきているが、これはよくないのでは(いや、大丈夫です)とか、若い人の失業率が高いのは、彼らがフリーターなんぞと無責任なことをやっているからだ(じつは若者は、そうするしかなくなっているのです)とか、中国は脅威だ(いや、お得意様でもあるのです)とか、こういった具合である。本書を読んでいると、日本の実力に過度に悲観的になる必要はないという印象をもつが、かと云って楽観もできない。少なくとも、日本は平等社会ではなくなっているというのは、これは真実の部分が多いようだ。それも、金持ちが多いというよりは、貧しい人が多いというタイプの国らしい。
 そして、問題はやはり日銀だ。デフレは総体的に見て著しく経済に悪いのだが、日銀はそれを絶対に認めようとしない。だいたい、デフレが悪いというのが、依然として日本人のコンセンサスになっていないというのは、歯がゆくも悲観的な気分にさせられることである。何度もいうが、TPPはどうでもいいし、社会保障と税の一体改革など、景気がよくなってからやればいい。緊急性があるのは景気対策であり、円高対策である。(これは素人考えで思うのだが、円高はもうこれが限界のあたりではないだろうか。一気に負の相転移を起こしたら、どうするのだろう。)これはデフレ対策から直結するのだ。というのは、問題からの逃避ではない。これしかないのである。それ以外の方策を採れというのは、不勉強がもたらすものだと敢て云っておく。
 それから、どうでもいいことかもしれないが、本書は題がちょっとミスリードかも。とにかくいい本です。
 なお、上の山形浩生の経済本リストは、とても参考になるものだ。既に読んだものもあるし、他にも何冊か読んでみたくなった。山形抄訳のケインズも読まないとね。