日本の林業を論じた新書

森林異変?日本の林業に未来はあるか (平凡社新書)

森林異変?日本の林業に未来はあるか (平凡社新書)

TPP参加で日本の農業は林業のようになる、という話を読んだので、では現在の日本の林業はどうなっているのかと、取り敢えず本屋で林業関係の新書を探してみた。だが、これがないのである。割と新書のおいてある本屋でも、林業関係の新書は一冊も見当たらない。まあ、地元の本屋だから仕方ないと思い、ネットで検索してみた。して、あることはあったが、やはりさほどの数はない。農業などとはちがうのである。日本の林業は忘れ去られたようなものだ。実際仕方のないところもあって、本書によれば、日本における林業の従事者の数は、五万人を切る。この程度の従業員を擁する企業は、日本にはざらにあるから、いかにも少ない数字なわけだ。
 日本の林業のイメージというと、安い外材にシェアを奪われた、零細産業というものではないか。少なくとも自分はそういう感じだったのだが、意外なことに、国産材が売れるようになってきているというのである。中国などの木材需要が高まり、外材の価格が上がったためらしい。これは確かに慶賀すべき事実だが、問題がないわけではなく、需要はあるのに、国産材の価格は低迷しているという。この理由はあまりはっきりせず、本書によれば、木材が売り手市場から買い手市場にシフトしたためらしい。この国産材の価格低迷があるために、結局従来からの問題はあまり解決せず、大規模伐採によるハゲ山化など、あらたな問題が起きてきている始末である。
 もちろん、意欲的な仕事をしている企業・団体はあるのであって、とにかく林業は現代ビジネスの常識が導入されていない、旧態依然の部分が多く、それを(効率の追求など)ビジネスとして当り前の形態にすることで、成功しているところもある。これはもちろん当然のことだ。しかし弊害もあって、例えば重機を導入し、稼働率を上げることにより、山をどうしても痛めることになりかねない、という問題もある。ここらあたりはむずかしいところだ。
 で、最終的な鍵は、やはり若い人を林業に呼べるか、というところである。若い人で森の仕事をやりたいという人は少なくないらしく、実際に就業する人たちもいるのだが、なかなか続かないという。林業は日当制が多く、ボーナスもなしというのが多いから、これではやっていけない。男性でも、結婚と同時にやめざるを得なくなるということがあるようだ。また、はっきり云って危険な職業でもあるし。他業と比べ、事故率はかなり大きいのである。
 そして、本書に詳しくは書いていないが、補助金の問題もある。林業補助金が相当に注入される職種であるが、これは利権を産むし、山主や林業家を堕落させる元にもなっている。これもむずかしい問題だ。正直言ってこういう話は嫌になってくる。林業のために与えられる補助金が、林業を腐らせる。こうなると、林業が衰退するのは、自業自得であると云いたくなる。