尖閣問題をどう捉えるべきなのか

日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 (ちくま新書 905)

日本の国境問題 尖閣・竹島・北方領土 (ちくま新書 905)

近年クローズアップされてきた、日本近海の領土問題に関する一書である。以下は、本書の正確な要約でも何でもない。論争的な本なので、著者の正確な意見を知りたい場合は、必ず本書そのものを参照して頂きたい。また、本書は竹島北方領土問題も扱っているが、以下は基本的に、尖閣諸島に関する中国との問題に絞って書く。
 まず、大雑把に述べておけば、「尖閣諸島は必ずしも古来の日本の領土とは云えず、国際的にも、疑いなく日本の領土であると認められているわけではないし、ましてや領土問題が存在しないとも云えない」ということである。日本が尖閣諸島を自国の領土だと宣言したのは、明治維新のときであるに過ぎない。その根拠も、外国がかつてその国の領土と認めたことはなく、いわゆる「無主の地」であるというものであった。しかし、その論理は通用せず、なぜなら、中国は十五世紀の段階で、「釣魚島は台湾の一部である」との認識であったことがわかっている。「釣魚島」という名前自体、台湾の漁船がその近海で漁を行ったことに由来している。
 次に、尖閣諸島が国際的に日本の領土だと認められているかどうかだが、端的にアメリカの認識を見てみると、アメリカは一九九六年以降、一貫して「尖閣諸島で日中のいずれの立場も支持しない」としている(p.87)。二〇〇四年にも、「尖閣の主権は係争中である。アメリカは最終的な主権の問題に立場をとらない」とも言っている(p.88)。
 では、どうしてこれまで、尖閣諸島の問題が表に出てこなかったのか。それは、中国側のトップ(周恩来訒小平)が、問題を棚上げすることを容認してきたからである。つまり、中国側の利益を考慮し、尖閣諸島における日本の実効支配を(暗黙に)認めてきたということである。もちろんこれは、中国側が領土の放棄を意思したものではまったくない。この「棚上げ」は、日本に非常に有利なものであったが、菅政権はこのような「棚上げ」は存在しないとした。中国側の一部は、この日本の対応を喜んだという。


 領土問題は紛争、乃至は戦争に容易に発展する。実際に「紛争」に立ち至った場合、どうなるか。ほぼ確実に、アメリカは動かない。日米の間にはもちろん日米安全保障条約が存在するわけであるが、まず、アメリカの認識としては、尖閣諸島は日本の「施政下」にあることを認めている。したがって、安保条約第五条により、尖閣諸島は安保条約の対象になる。ここまでは問題ない。ゆえに、アメリカは日中間に尖閣問題で紛争が生じた場合、軍事的に介入するか。これは「自明でない」のである。安保条約では、アメリカは「自国の憲法上の規定に従って行動する」とされているのみである。アメリカは、介入の義務を負わないし、実際にモンデール大使は一九九六年、尖閣諸島の中国奪取は「アメリカ軍の軍事介入を強制するものではない」と発言してしまった。(これは言ってはならない本音で、これが理由で大使は解任されたと思われる。)
 では、日本と中国の間で軍事衝突の事態になった場合、どうなるか。マスコミなどでは「日本圧勝」の文字が踊るが、仮に(これはあり得ないだろうが)全面戦争になった場合は、核兵器をもつ中国が負けるということはあり得ない。尖閣諸島における局地的な紛争になった場合は、現段階では、量の中国、質の日本というところらしいが、質的に中国軍が急速にハイテク化し、近いうちにアジアにおけるアメリカ軍の優位すら危うくさせるほどになるのは、確実である。例えば、最新鋭のステルス戦闘機を、既に中国は開発し、大量の配備計画を立てている。日本にステルス戦闘機の配備計画はない。また、中国のミサイル網は、日本にある日米の軍事基地に対する大量のミサイル攻撃を、直ちに行える実力をもっている。いまの段階で、日米軍がこれに対抗することは容易ではない。潜水艦の軍事能力も、中国軍は近い将来、自衛隊の水準を抜くことは明らかである。


 以上のことをもって、本書は、日本としては実際の武力衝突を避け、外交によって事態を打開する方がよさそうであるとする。以上のことは、自分は完全に素人であり、正確な判断ができるかどうかはわからない。ただし、本書は徹底してロジカルに記述してある。そのあたりが、本書に説得力を感じる所以である。