極めて面白いローマ帝国衰亡新史
- 作者: 南川高志
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/05/22
- メディア: 新書
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通説が覆されるのは、他にもたくさんある。例えば、ローマ帝国に国境という考え方はなかったこと。従来言われていた「国境」というのは、精々軍隊駐屯線に過ぎず、それもまた、曖昧なものであった。境界は「線」ではなく、いわば「ゾーン」だったのであり、物資や貨幣などもそれを越えて流通していた。そもそもローマには共和制の頃から、「限りない帝国」(インペリウム・シネ・フィネ)という考え方があったという。
また、「ゲルマン民族」というのも、そうした「民族」がまとまって存在したわけではないということ。実際、「ゲルマン民族」とされる中から、ローマ帝国における有力者になることは、めずらしくも何ともなかった。では、「ローマ人」とはいったい何だったのか。著者はそれを、己を「ローマ人」と見做す人々に他ならないとする。これはトートロジーではない。著者がローマ帝国は想像の共同体ではないと述べているところがあるが、その意味ではやはり、ローマ帝国は想像の共同体に他ならなかったのだ。
本書を読むと、ギボン(ちなみに自分はまだ積ん読のままです)以来の、学問の進歩を感じさせる。軍人皇帝時代なども、通説は一変させられている。「背教者」ユリアヌスに一章を当ててあるのも面白い。歴史の好きな人には、是非お薦めの好著です。