「貧困大国日本」にならないために、アメリカを見る(ことは可能か?)
- 作者: 堤未果
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/06/28
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (47件) を見る
これはアメリカの話であり、日本には関係ないと思っていたら大間違いである。じつは、本書を読み始めて直ぐに、ウチの今晩の夕食に問題が直結していることがわかって、びっくりしてしまった。今日のウチの夕食はカレーの予定なのだが、カレー用に買ってきたアメリカ産の豚肉を、果して食べて大丈夫なのかと思ってしまったのである。本書を読んでいるとわかるが、豚に限らずアメリカ産の肉用家畜は、まるで工場のような建物にぎゅうぎゅう詰めにされて育てられているため、餌に大量の抗生物質が投与されているのだ。それも恐ろしいが、さらにそうした肉からは、抗生物質に耐性のある細菌が繁殖しているということが実際にあったのである*1。
まあ、そのことはよく知られているかも知れない。では、鶏の餌のトウモロコシについてはどうだろう。これには殆どの場合、GM(遺伝子組み換え)トウモロコシが使われている。でも、それが何なの、別にGM作物が危険という結果は出ていないのではないの、と云えるかも知れない。それは、じつはちがうのかも知れないのだ。というのは、そうした研究をすることが、実質上むずかしいからなのである。実際、学者によってGM作物の危険性を指摘した発表がなされると、なぜか悉く激しい攻撃を受けるというのだ。事実、そのような論文が、最高クラスの権威を持つ学術誌『ネイチャー』に発表されたことがあるのだが、その研究者には数千通の中傷メールが殺到し、パニックになった『ネイチャー』はその論文を取り消してしまったのである。後になって、それらのメールは、GM種子を販売するモンサント社によって雇われた、PR会社によるものであることが判明した(p.52)。学問ですら、『ネイチャー』ですら、そんなものなのだ。驚くべき事実ではないか。
本書を読んでいると、問題の一番の原因は、政府の規制緩和策にあるということがわかる。規制緩和をすれば、競争原理が働き、物の値段が安くなって、消費者のためになるというのである。これは日本でもよく使われる議論であるが、事実はと云えば、市場は規制緩和で体力のある大手資本の寡占乃至独占状態になり、それら企業のやりたい放題になるのだ。これは、アメリカ市場の多くの業種で共通して見られる事実であり、日本でもそうなりつつある。これが「1%」の元の一つなのである。アメリカの小売業のウォルマートなどは、その典型だ。ウォルマートの力があまりにも強いので、個人の農業、畜産業者などは、徹底して搾取されている。それでも、独占企業に対抗することはできす、事実上の「奴隷状態」に陥るしかない。
他にも、GM種子と高価な農薬をセットで世界中に売りつけ、その国の農業を崩壊せしめてしまうグローバルな農業ビジネスや、オバマ大統領の国民への裏切り、警察や消防の機能まで民営化してしまう自治体の話など、まだまだ云うべきトピックは多いが、まあこれくらいにしておく。本書は今のTPP問題や、また規制緩和策の功罪について考えるための必読書であり、次の参議院選挙の捉え方にも役立つだろう。是非皆に読んで欲しい名著である。