多田富雄氏の凄惨な人物回想録
- 作者: 多田富雄
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/01/28
- メディア: 文庫
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しかし、文学的才能をもつというのは、怖ろしいことでもある。著者もまた、氏自身の云う「鵺」をもった人だった。才能があるというのは、人間的魅力とともに、平凡な幸せから離れてしまいかねない。常に、創造の神は意地が悪いのだ。まさしく凄惨である。本書の文庫巻末エッセイは、独文学者の池内紀氏の手に成るものだったが、この優れた文章家の文章が、多田氏の文章のあとでは汚く感じられるほどだった。本書が文学史に名を留めないということがあるとすれば、それはおかしなことだと思われるくらいである。