橋本治の驚嘆すべき短篇集

蝶のゆくえ (集英社文庫)

蝶のゆくえ (集英社文庫)

短篇集。本文庫には著者自身の「自作解説」があって、これがとても興味深い内容なのであるが、詳しくは取り敢えず措いておいて、そこには「『蝶のゆくえ』は、『生きる歓び』『つばめの来る日』(いずれも角川文庫)に続く、現代を舞台にした橋本治の三作目の短編小説集である」とある。自分は偶々(ではないかも知れないが)前二作も読んでいて、いずれも岩波文庫的傑作であることを疑わない。本書の短編もまたそうなのであるが、これら短編の主人公たちは、いずれもそこいらに居そうな、普通に見える人たちなのに、これまで小説に書かれなかった類であるような気がする。「気がする」というのは、自分があまり小説を読んでいないからで、少なくとも自分は、こういう小説を他で読んだことはない。しかし、本書を読むと、フツーの人(自分もそうだ)というのは、何ともさみしい存在だという感じがする。人間の根底というのは、さみしいものなのだろうか。それは「愚か」と言い換えてもいいのかも知れないが、それは、人は「愚か」でないということは殆どあり得ないからなのだ。そのような「あはれ」さこそ、これら全三作の短篇集の基調音だという気がする。云ってみれば、何か淡色の水彩画のような、不思議な雰囲気があって、小説というものを超えているような感じがある。別に、「お話」としてつまらないことはないのだけれど。
 しかし、著者が自分で書いているとおり、橋本治の小説に賞が与えられたのは、本書が初めてだというのは、殆ど信じられないような気がする。まあ、賞などというのはお遊びみたいなものだが、それでもねえ。ところで、この系列の短編、橋本治は書き続けているのだろうか。そうであれば、それらも是非読みたい。そうでしょう?