平和構築には事実を知れ
日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門 (朝日新書)
- 作者: 伊勢崎賢治
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2014/10/10
- メディア: 新書
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本書は徹底的に事実の書である。イデオロギー(右翼とか左翼とか)はまったく関係がない。とにかく日本人は、頭の中だけで考えられた(マスコミ、ネット等の垂れ流す)妄想だけに頼らないで、まず事実を知るべきだろう。例えば伊勢崎さんは、憲法第九条はいずれ改正されねばならないのかも知れないが、今のところ、紛争処理などに関して現実的に役に立つ(それは伊勢崎さんの体験である)ことを指摘している。そしてまた、日本は中東などでも「美しく誤解」されていて、これは失うには惜しい日本の財産になっているそうだ(それがなければ、アフガニスタンにおける武装解除の成功はあり得なかったそうである)。
それにしても、自分はイデオロギー的には左翼的なのであろうが、自衛隊は本当によくやっていると思う。驚くべきことに、自衛隊には「軍法」がないので、PKOで海外に派遣されても、隊員たちの自覚だけでやっているそうである。実際に何をやっているかというと、危険地帯でわざわざ目立つ格好をして、「日本の軍隊は人を殺しませんよ」ということをアピールしているというのだ。戦闘行為とはちがう、これはこれで大変な重圧であろう。自衛隊員は戦闘行為では死んでいないが、PKO活動から帰ってきた隊員たちには、相当の自殺者が出ているという。伊勢崎さんによれば、現在のPKO活動はどこでも非常に危険なものになっており、自衛隊が戦闘に巻き込まれていないのは幸運だという。
最近の中国との緊張関係で云えば、戦争になっても失うものは多くて尖閣諸島くらいのものであるし、それよりも、叡智を絞れば平和的に解決することはきっと可能だと、過去の各国の紛争を解説しながら述べる。キーワードは「ソフトボーダー」で、当事者双方が「痛み分け」を承認することにより、紛争を終わらせるやり方である。現実的には、それしか方法はない。事実としては、過去中国は尖閣諸島のソフトボーダー化を事実上容認してきたのであり、日本の民主党政権が無知によりそれを覆してしまったわけだが。
とにかく我々に足りないのは、まず事実を知ることであろう。本書は、きっとその目的に叶うものだと信じている。