『ぼくらの民主主義なんだぜ』確かに!
- 作者: 高橋源一郎
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2015/05/13
- メディア: 新書
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それにしても驚かされるのは、源一郎の言っていることはとても大切なことがテンコ盛りなくらいなのに、そこには「正義」の腐臭がまったく感じられないところだ。そこが例えば池澤夏樹とはちがって、源一郎さんが真の知識人である証拠だと思う。たとえ弱者のために「正義」を振りかざすのだとしても、その「正義」は必ず副作用があり、さらには必ず反転する。これは本当にむずかしい問題で、その罠から逃れられるには強靭な思考力が必要とされるのだが、源一郎さんはそれをほば達成しているようなのだ。
本書はちょうど東日本大震災の直後から始まっているが、あれから日本はずっと大変な状態に陥っていて、今でも事態はどんどん悪化している。本書を読むとそれがよくわかる。経済はリフレ政策でよくなってきたが、本書で扱われている問題は殆ど何ひとつ解決していないようだ。つくづく思うが、経済がよくなったことはじつによいことだけれども、経済の好転がすべてを解決するわけではない。それどころか…、いや、やめておこう。しかし、どうして我々はこんなところまで来てしまったのか。
子供たちが出て行ってしまった祝島で、棚田で米を作り続けている80歳のおじいさん。棚田は、おじいさんのおじいさんが子孫のために30年かけて石を積んで作り上げてきたものだ。「田んぼも、もとの原野へ還っていく」と、おじいさんは微笑んで、新しい苗代を作るのである。(p.39)