「微分」「積分」という語の出てこない(!)微積分の本

微積分入門 (ちくま学芸文庫)

微積分入門 (ちくま学芸文庫)

これはユニークな本だ。微積分を教える本なのに、lim すら出てこない。というか、「微分」という語すら基本的に使われないのだ! では、どうやって教えるのか。それには、ちょっと歴史を思い出してみよう。微積分という学問の創始者は、ニュートンライプニッツだと云われる。二人はそれぞれ独立して微積分を「発見」したとされるが、順番はニュートンの方が少し早く、またライプニッツは、微積分発見の事実だけは知っていたかもしれない。そして、二人の発見した内容は同じではあるが、その見かけは随分ちがっている。ニュートンは「力学」の創始者でもあり、その力学のために微積分を考え出した。いわば「物理学的」なのである。一方、ライプニッツ微積分は、「数学的」である。二人の微積分学は、表記法も随分ちがう。いま普通に使われるのはライプニッツ流の表記法であるが、物理学ではニュートン流の方がわかりやすいことも多い。
 どうしてこんなことを書いたのかと云えば、じつは本書は、上の「ニュートン的な」考え方で微積分を教えているのである。簡単に云えば、こういうことだ。誰でも「距離」と「速さ」というのは知っているだろう。じつは、「距離」を(時間で)微分したものが、「速さ」なのである。そしてその逆、「速さ」を(時間について)積分すれば、「距離」になる。これがすべてなのだ。ただ、これを納得するのは、なかなか簡単ではない筈である。本書は、それを納得させようという本なのだ。
 さて、本書の想定する読者はどんな人か。これはちょっとむずかしい、本書の内容そのものは中学生でも理解可能だと思うが、3次以上の代数は中学ではやらず、高一でやることになるので、高一の数学が必要になってしまう。じつは3次以上の代数と云っても大したことは使われていないので、そこだけ勉強すれば中学生でも読めるだろう。まあ、高校生が楽しく読んで欲しいと思う。本書は「簡単な」説明をしているが、基本的にはこれで充分なのだ。あとは、本格的な数学書を読めばいいと思う。数学から離れてしまった大人も、是非中高生の頃を思い出して、本書で遊んでみて欲しい。