意見を決めるということ
- 作者: 岩本裕
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2015/05/21
- メディア: 新書
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ですから、本書は我々市民が読んで損はない書物であると云えましょう。自分は推奨しておきます。で、あとはちょっと蛇足をしておきます。読んでいて自分に思われたのは、世論調査はいいのですけれど、それでいつも思うのですね、皆どんなことについても、聞かれれば意見が言えるのだなあと。本書に笑い話でなく、こんなことが書いてありました。アメリカのワシントン・ポストが、「1975年公共法」の施行二〇周年にあたり、この法律を廃止した方がよいかを調査したところ、半数の人が「わからない」と回答したそうです。半数もわからないなんて、普通は質問の仕方に問題があるところですよね。しかし、その結果を当り前だと取るべきなのか、というのは、そんな法律はじつは存在していなかったのです。半数の人は「わからない」とは答えなかったのですから、存在しない法律について意見をもっていたということになりますね。バカバカしいと思われる方は幸いです、僕は、これに近いことはじつは普通なのだと思います。もっとも、だからどうというわけではないのです。事実はそんなものなのですが、僕はむしろ、何にでも意見をもつというのは、却って問題なのだと考えます。アメリカの知識人で、スーザン・ソンタグという人がいました。既に癌で亡くなっていますが、この人の発言は個人的に心に残るものが多かったです。で、そのソンタグは、高橋源一郎さんからの間接的な知識ですが、何にでも意見をもつことをよいことだとはしなかったそうです。敢て意見をもたないこと、意見を決めないこと。その方が柔軟で誠実であり、敢て云えば「正しい」ことがあると、ソンタグは言いたかったのかわかりませんが、自分はそう解釈しています。存在しない法律について意見をもつこと、そういうことが少なからず世論調査の中に含まれているような気がしてならないのです。
少し話はずれますが、意見を決めるということで、熟議民主主義という考え方があって、理想ではあるがそう上手くいかないという(現実的な)判断もあります。でも、僕は自分が対話の場にないので痛感するのですが、やはり対話は意味があるような気がします。本書にも「討論型世論調査」というものが紹介されていて、そう簡単なことではないらしいですが、著者はその可能性も感じておられました。そこでですが、僕は、インターネットのいいところは、自分のとちがう意見に簡単に接することができることにもあると思っています。そこに他人との、想像上の「対話」が行われるといいわけです。それですらなかなか上手くいかないですが、インターネットの可能性だと思っています。