母‐娘関係の特殊さ

母は娘の人生を支配する なぜ「母殺し」は難しいのか (NHKブックス)

母は娘の人生を支配する なぜ「母殺し」は難しいのか (NHKブックス)

もともと、精神科医が自分の職業的な経験を論拠にしながらおこなう社会批評は、なんとなくあまり好きになれない。力のある書き手である斎藤環のこの本でも、後半は嫌になって読み飛ばしてしまった。それを措けば、「母‐娘関係の特殊さ」という主題はまさしく初めて聞くもので、冒頭は興奮させられた。母‐娘関係は、一旦こじれると際限なく泥沼化していくというのである。しかしこれも、女の人には自明のことかも知れない。少し話がずれるかもしれないが、よしながふみの発言を、本書から孫引きしておこう。
「男の人の抑圧ポイントは一つなんですよ。『一人前になりなさい、女の人を養って家族を養っていけるちゃんとした立派な男の人になりなさい』っていう。だから男の人たちってみんなで固まって共闘できるんです。男は一つになれるんだけど、女の人が一つになれないっていうのは、一人ひとりが辛い部分っていうのがバラバラで違うんでお互い共感できないところがあると思います。生物学的な差では絶対にない。これは差別されている側はみな一緒ですよね。アメリカにおいて、全部合わせれば白人より多いはずのマイノリティが文化が違うから一緒になれないのと同じです。」