日本論の古典

菊と刀 (講談社学術文庫)

菊と刀 (講談社学術文庫)

あまりにも有名な日本論の古典であるが、読んでいて次第に嫌になってくるような感じだった。著者が悪いのではなくて、ここに描かれている古い日本に、うんざりさせられてきたのである。そう思うと、こちらの常識も既に随分と西洋化されているということであろう。
 この本は一般的に、「罪の文化」と「恥の文化」というフレーズで有名であるが、それで尽きるほど単純な議論をしている訳ではない。日本人から見ると的外れなことを述べている部分もないではないが、著者は一度も日本を訪れたことがないのにも拘らず、文化人類学者らしく(このことは強調しておこう)、多くの部分で日本人の心理の細かいところまで、時には日本人の気付かないところまで記述しているのは、殆ど驚異的であるといえよう。
 しかし、ここに述べられた古い日本であるが、もちろん今でも同じ点もあるが、既に失われてしまったところもかなりある。さて、それは良かったことなのか、どうか。今の日本は、本当に「恥の文化」なのであろうか?