旅と大人と文章

明るい旅情 (新潮文庫)

明るい旅情 (新潮文庫)

ちょっとガム・シロップ(いや、ペパーミントだろうか)みたいな文章で、こちらの好みからすると少々甘い。いずれにせよ、少し気恥ずかしいような感じがするのだが、それだけであったら愚著であるけれども、ところどころでぐいぐいと惹きつけられ、思わず文章に没入させられる瞬間がある。須賀敦子池澤夏樹をまず第一にエッセイストだとしたが、むしろ小説家としての方の美質を持っている人のような気もする。(少数意見であろうが。)このエッセイ集の中では、「北欧の酩酊」という一文に感じ入った。ヨーロッパが大人の文明だということを、これほどはっきりと教えてくれた文章はない。ヨーロッパでつい無理な移動スケジュールをたてて、案の定失敗した著者が、そこでどのような対応を受けたか。詳しくは書かないが、これと比べれば、日本はまだお子様ランチだなどとつい言ってみたくなってしまうのだ。