丘の上のバカ
- 作者: 高橋源一郎
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2016/11/11
- メディア: 新書
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ポストモダン哲学の最大の功績のひとつは、「自分の言葉だと思っているものはじつは、その殆どがじつは他人の言葉にすぎない」という事実を明らかにしたことであると思う。ってこれは僕の理解にすぎないから、テキトーです。源一郎さんがすごいし、その言葉が自分の琴線に触れる理由は、その事実を源一郎さんがわきまえているからだとも思える。とにかく自分なりに自分で考えてみることは、バカにもかしこい人にもまず不可能なくらいむずかしいことである。本書での源一郎さんの意見は確かに自分には納得・共感されるものがとても多いのだが、結局はそれが「正しい」からというより、自分の手持ちの材料で考え抜こうとするその姿勢にいちばん共感するのだと思う。それは必然的にまちがうのだが、我々バカはそうして考えるしかないのだ。本書は政治という難物を相手に、源一郎さんが徒手空拳で立ち向かったバカの記録なのだと思う。
忘れられたガザ
- 作者: 藤原亮司
- 出版社/メーカー: dZERO(インプレス)
- 発売日: 2016/04/29
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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まだ我々には青柳いづみこさんがいる
- 作者: 青柳いづみこ
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2014/05/23
- メディア: 単行本
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物理学って楽しいよな、そうでしょう?
- 作者: 広江克彦
- 出版社/メーカー: 理工図書
- 発売日: 2015/12/01
- メディア: 単行本
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で、一気に通読した感想だが、やはり「量子力学はむずかしい」ということ。そりゃお前の頭が悪いせいだろうと云われるかも知れないが、まあそれは確かにそうなのだけれど、僕の言いたいことはそれとはちょっとちがう。数学的な点で云えば、本書のような入門レヴェルの内容ならば、僕だってだいたいはわかっているつもりである。それでも本書はむずかしいし、量子力学は理解するにむずかしいのだ。これが一般相対性理論ならば、これも確かにむずかしく、僕などにはそれを使って問題をバリバリ解いていく力はないけれども、それでも一般相対性理論のあらましは見えている感じがする。イメージとして、自分の理解はそんなに見当はずれではないことは確信しているのだ。量子力学には、そういう感じがもてない。何だか、どこをどう攻めていったらよいかわからないというか。
本書に目を通しても、それを克服したという感じは自分にはまだない。しかし、ちょっと見えてきたところもある。こう言っては失礼だが、EMAN さんは抜群に切れる秀才ではない。であるからこそ却って、納得するまで自分で考えるということをされている。そこらあたりで見えてきたのだ。まだそれは上手く言語化できないが、とにかく量子力学は「公理論」的に考えているだけではダメなのだ。僕は、典型的な還元主義者、公理論的発想をするタイプだと思う。ここの攻め手からだけでは、どうも突破口は開けないらしい。
いつもの EMAN さんの本と同じで、本書は抜群の秀才のための本ではない。どちらかというと、何とか量子力学を理解したいが、どの教科書を読んでもよくわからなかったというような、ある意味凡人の助けになるかも知れない本である。かと言って、アマチュアだけのための本でもない。いつもながら、自分は読んで楽しかった。しばらく本書をあちらこちらひっくり返すつもりである。EMAN さんが書きたいという続編も、期待して待ちたい。
「微分」「積分」という語の出てこない(!)微積分の本
- 作者: W.W.ソーヤー,Walter Warwick Sawyer,小松勇作
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2015/10/07
- メディア: 文庫
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どうしてこんなことを書いたのかと云えば、じつは本書は、上の「ニュートン的な」考え方で微積分を教えているのである。簡単に云えば、こういうことだ。誰でも「距離」と「速さ」というのは知っているだろう。じつは、「距離」を(時間で)微分したものが、「速さ」なのである。そしてその逆、「速さ」を(時間について)積分すれば、「距離」になる。これがすべてなのだ。ただ、これを納得するのは、なかなか簡単ではない筈である。本書は、それを納得させようという本なのだ。
さて、本書の想定する読者はどんな人か。これはちょっとむずかしい、本書の内容そのものは中学生でも理解可能だと思うが、3次以上の代数は中学ではやらず、高一でやることになるので、高一の数学が必要になってしまう。じつは3次以上の代数と云っても大したことは使われていないので、そこだけ勉強すれば中学生でも読めるだろう。まあ、高校生が楽しく読んで欲しいと思う。本書は「簡単な」説明をしているが、基本的にはこれで充分なのだ。あとは、本格的な数学書を読めばいいと思う。数学から離れてしまった大人も、是非中高生の頃を思い出して、本書で遊んでみて欲しい。
僕の好きなシジン
- 作者: 佐々木幹郎
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2007/08/24
- メディア: 単行本
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佐々木幹郎という人は最近まで知らなかったが、僕にはこの人は「ちょっとちがう」ように思われる。どこか、生命の根源に触れている人ではないかと感じる。世の中には色んな「詩人」がいるが、こういう人こそ本当の詩人なのではないか。シジンの手にかかると、生きるというのは何と楽しいことか。手垢にまみれた言葉だが、僕はこの人はホンモノだと思っている。是非、詩集も読んでみたい。
意見を決めるということ
- 作者: 岩本裕
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2015/05/21
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ですから、本書は我々市民が読んで損はない書物であると云えましょう。自分は推奨しておきます。で、あとはちょっと蛇足をしておきます。読んでいて自分に思われたのは、世論調査はいいのですけれど、それでいつも思うのですね、皆どんなことについても、聞かれれば意見が言えるのだなあと。本書に笑い話でなく、こんなことが書いてありました。アメリカのワシントン・ポストが、「1975年公共法」の施行二〇周年にあたり、この法律を廃止した方がよいかを調査したところ、半数の人が「わからない」と回答したそうです。半数もわからないなんて、普通は質問の仕方に問題があるところですよね。しかし、その結果を当り前だと取るべきなのか、というのは、そんな法律はじつは存在していなかったのです。半数の人は「わからない」とは答えなかったのですから、存在しない法律について意見をもっていたということになりますね。バカバカしいと思われる方は幸いです、僕は、これに近いことはじつは普通なのだと思います。もっとも、だからどうというわけではないのです。事実はそんなものなのですが、僕はむしろ、何にでも意見をもつというのは、却って問題なのだと考えます。アメリカの知識人で、スーザン・ソンタグという人がいました。既に癌で亡くなっていますが、この人の発言は個人的に心に残るものが多かったです。で、そのソンタグは、高橋源一郎さんからの間接的な知識ですが、何にでも意見をもつことをよいことだとはしなかったそうです。敢て意見をもたないこと、意見を決めないこと。その方が柔軟で誠実であり、敢て云えば「正しい」ことがあると、ソンタグは言いたかったのかわかりませんが、自分はそう解釈しています。存在しない法律について意見をもつこと、そういうことが少なからず世論調査の中に含まれているような気がしてならないのです。
少し話はずれますが、意見を決めるということで、熟議民主主義という考え方があって、理想ではあるがそう上手くいかないという(現実的な)判断もあります。でも、僕は自分が対話の場にないので痛感するのですが、やはり対話は意味があるような気がします。本書にも「討論型世論調査」というものが紹介されていて、そう簡単なことではないらしいですが、著者はその可能性も感じておられました。そこでですが、僕は、インターネットのいいところは、自分のとちがう意見に簡単に接することができることにもあると思っています。そこに他人との、想像上の「対話」が行われるといいわけです。それですらなかなか上手くいかないですが、インターネットの可能性だと思っています。