本書は、当時吹き荒れた「反精神医学」の嵐に対して、
木村敏がどのように反応したかを示した著作だといえるかも知れない。
分裂病(
統合失調症)を「病気」と見做し、これを「治療」しようとする発想は、「正常者」の自分勝手な論理だ、などという発言が、それを物語っているであろう。
分裂病を「常識の解体」といい、「自己同一性についての自明性の喪失」というなど、まだ著者の独創的な理論がはっきりと打ち出されているわけでもない。(有名な、
分裂病に対する「アンテ・
フェストゥム」理論は、この本の三年後に発表される。『
自己・あいだ・時間―現象学的精神病理学 (ちくま学芸文庫)』所収)けれども、日常の自明性は「AはAである」という論理に裏打ちされたもので、
分裂病者の論理はそれを覆すところがあるというのは、興味深い指摘だった。([
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