森政稔の読み応えのある民主主義本

かたばみ

変貌する民主主義 (ちくま新書)

変貌する民主主義 (ちくま新書)

政治・社会思想音痴である者にとっては、現代の民主主義に関するタームを整理するために、これはとても有難い書物だった。特に、民主主義と保守あるいは自由主義(とりわけ新自由主義)の間の錯綜する関係を丁寧に腑分けしてあって、有益だった。それによると、サッチャーレーガンに代表される新保守主義は、ニューレフトなどの「行過ぎ」を批判する形で出てきたものであり、その傾向をさらに推し進めたのが、アメリカにおける新自由主義なのだという。
 この本は、全体的に見て、ある一面的な解説をして「これが真実だ」と煽動するのではなく、性急に著者の意見を主張するよりは、多面的に、説の長所と短所を共に述べるという行き方であって、この方が初心者には適切だと思う。だからまあ、このやり方でいけばOKというような単純な選択はないのがよくわかるが、それは実際、そうであろう。
 ポピュリズムについてもかなり詳しい言及があるが、これは本書が、二〇〇五年の総選挙における小泉政権の大勝利を受けて、それに対して書かれ始めたという経緯があるからで、これについても啓蒙された。小泉自民党に投票して自分の首を絞めることになったといわれる若年の低所得者層は、一体なぜそのような行動を採ったのか。著者はここに、リフレクシヴィティ(再帰性、反省性)の低下を見ている。リフレクシヴィティとは、自分の欲求を外から眺めて相対化することを指す。著者はいう、「それぞれ不満を持ちながら互いに利益を共有していない者たちが、『ぶち壊す』ことについてだけは意見を一致させることができる。そしてその結果、しばしば以前よりも不愉快な環境で生きていくことを選択させられるのである。」これは今でも大切な問題だと思う。