ギリシア文学と碩学

ギリシア文学散歩 (岩波現代文庫)

ギリシア文学散歩 (岩波現代文庫)

著者の斎藤忍随の名に初めて目を留めたのは、ショウペンハウエルの『読書について 他二篇 (岩波文庫)』の訳者としてだった。たぶん予備校生の時、まだ古典なども読み始めたばかりで、ショウペンハウエルの「本を読んでばかりいるな、自分の頭で考えよ」という忠告に頷いたものだったが、その内容だけでなく、ショウペンハウエルの、古典的な端正な文章にもまた惹かれたのであった。今となってはその教えも実らず、凡庸な読書人がまた一人できあがった次第となったが、それはともかく、今から思えばその端正な訳文は、西洋古典学を修めた訳者の力でもあったわけである。
 だから個人的に、本書は読んで楽しいものであった。ゆったりとしたテンポで綴られる、碩学の深い読みを楽しめば良いのである。著者は実は題名を「アポローンギリシア文学」としたかったと書いておられるが、その通り、アポロンの筋が一本通っており、それに関して多く語られる、デルポイの神託の話題が興味深い。そうそう、プルタルコスデルポイの神官、それも殆ど最後期のそれであったのだ。