わかりやすい科学史の歴史

パラダイムとは何か  クーンの科学史革命  (講談社学術文庫 1879)

パラダイムとは何か クーンの科学史革命 (講談社学術文庫 1879)

科学史の歩み(「科学史・史」ともいえよう)を、クーンを中心に簡潔に纏めた好著で、科学史の面白さを再認識させられた。本書によれば、クーンは新旧のパラダイムの間の「通約不可能性」を強調するが、例えばニュートン力学相対性理論は、そんなにきっぱりと切断せられているといえるのだろうか。前者は後者から導出できるのは確かで、もちろんそのことはクーンも判っているのだから、自説のための誇張だというように思われてしまうのだが。わざわざ持ち出される「部分的コミュニケーション」などという語は不要だと思う。
 また、クーンは「究極の真理」を目標とする科学観を拒否するが、それがいけないという積りはないけれども、そのような目標を失ってしまえば、抽象的な科学をやるような者などいなくなってしまうだろう。まあ、人文学などでは、「究極の真理」などは既に否定されているのではあるが。それから凡庸な連想なのだが、「パラダイム転換」というのは、内部からの破壊や意味のズレなど、ちょっと「脱構築」に似ているな。果たす機能は正反対であるのだが。