若桑みどりの最高傑作

若桑みどりの最高傑作。安土桃山期における日本とキリスト教の邂逅を、とりわけキリスト教世界の資料を巧みかつ公平に用いて描いた歴史書としても圧倒的にすばらしいが、それだけではない。著者はもちろん既に西洋美術史家、ルネサンスマニエリスム美術研究者として高名な存在であったが、日本の優秀な西洋研究者の陥る憂愁に、氏もまた陥ったのだった。ミケランジェロが自分の友人であるかのごとく分ってきたからといって、それが一体なんだ、というのである。自分との接点がないのだ。
 そこで著者の出会ったのが、天正少年使節だったのだ。氏はここで彼らと自分とをだぶらせている。「彼らは描かれたばかりのミケランジェロの祭壇画を仰ぎ見、青年カラヴァッジョが歩いた町を歩いたのだ。ローマの輝く空の下にいた四人の少年のことを書くことは、まるで私の人生を書くような思いであった。」
 こうして、日本とキリスト教の最初の出会いから、本書は始まる。細かい学問的なことは判らないが、まことに生き生きとした細部に満ちた歴史書だ。信長の光彩陸離たるイメージ、ヨーロッパにおける四人の少年たちの栄光、日本人に人気の高い秀吉の像の偶像破壊等々、とにかくおもしろい。
 それだけに、最後は哀切だ。なにとはなく、著者の早世(といわざるをえまい)と重なって、かなしくなってくる。残念だ。