世紀末芸術の魅力

世紀末芸術 (ちくま学芸文庫)

世紀末芸術 (ちくま学芸文庫)

世紀末の芸術とはとても魅力的な言葉であるが、その内実はというと、個人的には、正直言ってはっきりした像を持っていなかった。その渇が、本書によって一気に癒されたといいたい。二十世紀芸術に流れ込んでゆく多様な試みの総体を、これは鮮やかに示した名著だといえよう。十九世紀末、印象派によって外へ向けられた眼が芸術家の内部に向けられ、幻想と構築の一見相矛盾するような概念が同時に追及される。芸術のための芸術が宣言され、その唱道者たるオスカー・ワイルドの名は、本書の随所に登場するのだ。
 本書が書かれたのは1963年であり、これはさすがに早い。著者の記述はいつもながら明晰で香り高く、近代的(モダン)な散文としても魅力的である。また、鶴岡真弓の解説も、本書の魅力をよく捉えている。