「相対主義」から逃れられるのか

新・学問論 (講談社現代新書)

新・学問論 (講談社現代新書)

もう二十年ほど前の本であるが、ここに書かれた大学・知識人批判は、情けないことに今でも修正の必要がない。デリダが気になってしまう、デリダがやっぱり正しいのではないかと思ってしまう者には、西部邁はなかなか無条件に肯定できる人ではないが、氏が「人生」というようなところまで射程を持つ、自分の身に附いた確乎たる理論を有していて、そこから物を言っていることは確かだ。そういう意味で、稀有な人だと言える。
 著者の意見で急所になっているのは、「相対主義」に対する批判だと思う。アイロニーとか言って相対主義を鼓吹し、しかし裏でこっそりイデオロギーを持ち込むのは現代の言説でありふれた光景であるが、こういう欺瞞を見て、若い人が馬鹿らしい気分になるのは当り前である。しかしそこで、著者のように「伝統」などを称揚するのも今更むつかしい。結局、究極絶対の真理(truth)はないが、それとは別に、生きていくための「知恵(wisdom)」というものはある、とでも言うくらいしか思いつかないが、そのような新しい時代のための「知恵」も、まだ、はっきりとした形をとっている訳ではない。とりあえず、ないものはないと認めて、謙虚にやっていくしかないのだろう。