ポオの「ユリイカ」

ユリイカ (岩波文庫)

ユリイカ (岩波文庫)

詩人ポオによる名高い宇宙論であるが、現代物理学の視点から見ても興味深いところがたくさんある。例えば、ポオのいう「単一から単一へ」というのは、現代宇宙論のビッグ・バンからビッグ・クランチへというのを思わせるし、核力を思わせる記述もある。ポオの「斥力」はマクロに見ると、一般相対性理論の(アインシュタインが「生涯最大の過ち」と言った)宇宙項が連想される。(まあ、現代宇宙論ではビッグ・クランチはなく、宇宙項が存在して、宇宙は加速膨張していることがわかっているのではあるが。)思弁だけで導き出した、これらのことは恐らく偶然ではないのであって、それは厳密の詩人の真骨頂なのだと思う。かかる記述はもちろん学問的には無価値だが、想像力の観点からはとても面白いのである。
 それから、この宇宙論経糸ニュートン万有引力の法則であるが、ポオによるニュートンの理解は、ほぼ正確なものだということを付記しておきたい。それのみならず、万有引力が距離の二乗に反比例するということについて、ポオが遠近法的な図(69頁あるいはカバー表)で、視点からの透視面積が距離の二乗に比例することを使って理解しているのは、幾何学的な理解として優れてすらいるのである。