場の量子論の貴重な啓蒙書

光の場、電子の海―量子場理論への道 (新潮選書)

光の場、電子の海―量子場理論への道 (新潮選書)

場の量子論(量子場の理論)とは、量子力学を包摂し、現在、重力以外のすべての力と素粒子のふるまいを記述できる理論であるが、本書はこの場の量子論の啓蒙書である。場の量子論はまたきわめて難解なことでも知られているが、一般向けの本でここまで踏み込んで解説したのは、和書ではこれ以外ないと思われる。ただし、ある程度の予備知識がないとむつかしいと思われるので、量子力学を学び始めた学生あたりが読むといいかもしれない。逆に或る程度の知識があれば、これはかなり面白い本だと思う。例えば、電磁力の場の量子論的な理解を、光子の交換としてよく説明してあるが、その理由などは、やさしい参考書にはなかなか書いていないものだ。湯川秀樹の中間子論なども、そのアナロジーなのである。
 また特徴的なこととして、この本では、量子力学形成史の記述が在来の通説とかなり異なっていることが挙げられる。例えば、従来量子力学の主要建築者と見做されてきたボーアやハイゼンベルクなどはあまり評価されず、パウリやヨルダンなどが高く評価されているようだ。原論文を読み込んだ大胆な評価だと感じるが、このあたりなど、他の専門家の意見なども聞いてみたいような気がする。