バッハ演奏史に残るエデルマンの名演

J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ、イタリア協奏曲、パルティータ第6番

J.S.バッハ:半音階的幻想曲とフーガ、イタリア協奏曲、パルティータ第6番

なんと美しいバッハだろう! このエデルマンというピアニストは始めて聴くが、驚いたことに武蔵野音大の教授で、もう二十年ほども録音がなかったらしく、こちらが知らなくても不思議はない。なのに、このドラマティックなバッハといったらない。最初のクロマティック・ファンタジーからして、たちまち耳を奪われる。この曲はかつてはよく演奏され、バッハの鍵盤曲の中でも人気の高いものだったらしいが、最近ではあまり録音もなかったと思う(この曲をグールドが嫌っていたのは有名だ)。バッハにしては相当ロマンティックに聴こえる曲だが、エデルマンはこれをデモーニッシュなほど劇的に演奏する。恐らくは、バッハの演奏史に残る名演だ。
 イタリア協奏曲は表情のつけ方がむずかしい曲だと思うが、解釈としてベストに近い。特に、耽美的な第二楽章と、早めのテンポの終楽章がいい。聴いていて、リヒテルやアラウのバッハを思い出した。
 パルティータ第六番はグールドの名演があるが、他にも好演に飢えていた名曲で、これも渇を癒された。冒頭のトッカータがいきなり聴かせどころという曲だが、これがまったく美しく、感動的だ。
 すべての演奏に言えることだが、音色がとても魅力的で、これだけでも聴かせるのに、構造もはっきりしていて明晰なのが凄い。次の録音が待ち遠しいほどである。モーツァルトのK.310あたりなど、どうであろうか。