佐藤優の古典的傑作

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫)

いまさら著者の紹介は不要だろう。本書はベストセラーになり、それによって「国策捜査」という言葉も市民権を得たくらいだから、今頃何を言っているのか、ということになると思うが、それにしてもこれは、最近読んだ中で、一番おもしろく、興奮させられた本になった。原理的、哲学的なバックボーンも素晴しいし、著者の人間的な魅力も光るが、その中でも検察の取調べの担当者、西村氏との、お互いを認め合った、ハイレベルな戦いの様子は、どんな古典的ドラマにも匹敵する、(穏やかな記述なのに)ほとんど血湧き肉躍るといいたいほどの感銘を与えられる、書きっぷりになっている。「ここに人間がいる!」という感じなのだ。もちろん、面白いだけではなく、政治と外交ということ、インテリジェンスということ、お金のこと、鈴木宗男という政治家の偉大なること、知的であるということ、その他考えさせられることは山ほどあるのだが、本書のそういう面は恐らく既に言い尽くされているだろう。とにかく、おもしろい本だった。古典としての地位を約束された本だと云ってもいい。
 それにしても、最近の例の小沢事件などを見ていても、検察というのはどうしようもないと思っていたが、この本を読んでいて考えさせられたのは、この国は検察もひどいが、マスコミと国民はもっとひどいということだ。この国の検察のレヴェルというのは、国民のレヴェルの反映だというのがよく判った。自戒すべし。