新訳文庫のホフマン

黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ (光文社古典新訳文庫)

黄金の壺/マドモワゼル・ド・スキュデリ (光文社古典新訳文庫)

ロマン派のエンターテイナーである、ホフマンの新訳。「黄金の壺」は、新訳文庫らしいというか、ですます調で平仮名の多い訳だった。個人的には、ちょっと平易すぎて読みにくいという感じがなきにしもあらずだったが、古雅な石川道雄訳の岩波文庫版とはあまりにも違う訳文で、どちらか選べといわれたら、一種のメルヘンだから、こちらの大島訳かとも思う。(好みとしては、両者の中間くらいがいいのだが。)幻想小説なのだが、この作品は話が単純で、さほど面白くはなかった。
 しかし、「マドモワゼル・ド・スキュデリ」は傑作だ。ホフマンらしい幻想は乏しいが、ルイ十四世時代の実在の人物を用いたミステリーともいえる作品で、よく練られたプロットには一点の弛みもない。国王の信頼も篤い「威厳ある老いた淑女」マドモワゼル・ド・スキュデリの造形が、魅力的である。訳者の解説に拠れば、発表当時から大変な評判になったというのも頷ける。鷗外の自由な訳もあるそうだ。
 ホフマンはまた音楽家でもあり、音楽に関係した他の二篇も興味深かった。しかし、ホフマンの書いた音楽は小説ほど奔放でないらしく、本書所収の「クライスレリアーナ」(抄訳)の題をそのまま採ったシューマンあたりから、ドイツ・ロマン派の音楽が本領を発揮するようである。
黄金寳壷―近世童話 (1950年)

黄金寳壷―近世童話 (1950年)

シューマン:クライスレリアーナ

シューマン:クライスレリアーナ