凡夫と死

水の舳先 (新潮文庫)

水の舳先 (新潮文庫)

陳腐な言回しになりますが、著者を思わせる禅宗の僧侶と、癌患者たちの交流を描いた小説です。淡々とながら死と真摯に向き合っているところは、どこか青木新門さんの『納棺夫日記』を思い出させるところがあると云えましょうか。このような小説は現代には稀であると、やはり言っておくべきでしょう。でも、結局はみな死ぬのだし、そうである以上は、宗教家の方からこのような真摯な態度がなされるということは、喜ばしいことであり、有難いことと思われます。死を思うことを抑圧しながら、一方でフィクションでは死の軽すぎる現代、我々は、いや自分は、もっと哲学的・宗教的である必要があると痛感します。やはり死の怖い凡夫であるがゆえに、そうすべきだと思うのです。
納棺夫日記 (文春文庫)

納棺夫日記 (文春文庫)