- 作者: 鹿島茂
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2009/05/15
- メディア: 新書
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気になった点があるとすれば、構造的なものである。ここで著者がやっているのは、「初期の吉本は既に吉本で、後から見てもブレはない」ということであるが、これは東浩紀が(このままではないが、だいたい同じ意味で)指摘している通り、最近よく見られる、批評の紋切型である。「初期の吉本の偉さはわかった。では今は?」というのが我々の問いであろう。自分も確かに吉本はいいと思うが、正直言って、「知識人と大衆」という著者の着眼点と、同じところに感嘆しているわけではないような気がする。どちらかといえば自分は、「知識人と大衆」というよりも、「専門家と素人」という方が気になる。今は誰でも「専門家」であり、それに対して、知識人は「素人」たるべきではないか、というようなことだ。吉本はそういうことは言っていないだろうか?*1
しかし、この本が面白いことは強調しておこう。実は、本書を読んで、自分の持っている吉本の初期の著作にも再びちょっと目を通してみたのだが、マルクス主義などの「死語」の羅列で、あらためてこれらに命を吹き込む前に、嫌になってしまった。これが我々の貧しさで、左翼の退潮とともに、事態の分析に用いる概念の類いまで葬り去ってしまったのは、どう考えてもよいことではない。本書はその意味で、政治を語れなくなった世代に対する、優れた啓蒙書にもなっている。もちろん「死語」といっても心ある研究者なら死語になどしていないのだから、そのためにも、本書のような本は充分存在意義があると思う。
- 作者: 吉本隆明,月村敏行
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1990/10/03
- メディア: 文庫
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- 作者: 吉本隆明
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1991/02/04
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*1:例えば、『マス・イメージ論』や『ハイ・イメージ論』などは、明らかに「素人」の企てではないだろうか。