ル・クレジオ

大洪水 (河出文庫)

大洪水 (河出文庫)

著者はヌーヴォ・ロマンの作家だと云えるだろうが、即物的な描写が特徴のロブ=グリエなどとはだいぶ違う。観念的な(といっても観念的な語が多用されているわけではなく、描写とも云えないような抽象性というか)、意味があるのかないのか判らないような文章を次々と読んでいると、次第に廃墟のような荒んだイメージが浮かんでくる。現代の西洋の想像力の到達点は、このような廃墟にあるのかも知れない。特にプロローグとエピローグの非・意味さは、よくこのようなものを書いたな、と思わせる力技だ。しかし、第七章冒頭の日の出の描写は、とても美しかったりする。それから、望月芳郎の訳文は、たいへんダンディで端整なものだと指摘しておこう。(ル・クレジオは二〇〇八年、ノーベル文学賞を受賞した。)