近代日本絵画におけるシュルレアリスム

シュルレアリスム絵画と日本 イメージの受容と創造 (NHKブックス)

シュルレアリスム絵画と日本 イメージの受容と創造 (NHKブックス)

近代日本の洋画において、シュルレアリスム的といわれる絵画を描いた、古賀春江、福沢一郎、三岸好太郎、飯田操朗らを論じた好著である。ここで「シュルレアリスム的」などと回りくどいことを書いたのは、丁寧に分析してみると、それらは必ずしも西欧のシュルレアリスムと同じ発想で描かれてはいないことが、本書の論点の一つだからである。すなわちそれらは、「無意識の探求」というよりは、既存のイメージの引用と、それら複数のイメージの衝突による、構成主義的な絵画(特に古賀春江)といえるからだ。
 自分のことを云うと、これらの中で実見したのは古賀春江だけである。そのせいでもあるまいが、図版を見るに、四人の中で一番印象的だったのは古賀で、実見したときも「シュルレアリスムだな」と思った。本書を読むと確かにそれは西欧的なシュルレアリスムではないが、このモダンな絵画が、どこか日本人の無意識に訴える力を持っているのは確かだと思う。絵のタッチからしても、マグリット的な魅力があるのではないか。マグリットパラドックスは、ここにはないが。その論理の面白さがないところが、日本的といえば日本的だと思う。
 福沢も悪くないが、これは彼の真骨頂ではないようだ。三岸、飯田はあまりにも早世だったように感じる。
 本書は、最近読んだ美術本としては最も刺激的だった。この頃思うのだが、日本の近代絵画は、他の同時代文化の分野と同じで、西欧と日本の間で引き裂かれた魂の深刻さが刻印されていて、洵に興味深い。ほとんどが小粒であることを運命づけられているのだが、これがなければ、我々もまた存在しなかったのである。その上で、我々は何を生み出しているのか。一見西洋の抑圧から解放されたかのような無邪気な制作物が氾濫しているが、これでいいのだろうか。難しいところだ。