ポール・クルーグマン

経済政策を売り歩く人々―エコノミストのセンスとナンセンス (ちくま学芸文庫)

経済政策を売り歩く人々―エコノミストのセンスとナンセンス (ちくま学芸文庫)

昨年ノーベル経済学賞を受賞した著者は、また筆の立つ経済学者として、日本でも多くのファンがいるというのは、改めて申すまでもないだろう。本書も文章はまったく明快で、アメリカの経済政策がどのような人々によって決定されてきたのかを、レーガンからクリントンに至るまでの政権について、具体的に検証している。著者に言わせれば、それは学界で主流の経済学者によってではなく、政策プロモーター(共和党政権では「サプライ・サイダー」、民主党政権では「戦略的貿易論者」)という素人たちの手でなされてきたのであって、その政策は基本的にナンセンスだったことが、著者によって厳しく断罪されている。そして、保守派は「ケインズは死んだ」と言ったが、実際のところは、ケインズは「死んでいなかった」らしいのである。
 一番面白かったのは最終章で、ここでは著者も理論形成に加わった、新しい国際貿易理論が解説されている。ここの議論はかなり詳細なもので、とても簡単には要約できないのだが、結局、生産性に違いのある二国間が貿易を行うとき、どちらかが潰れるのではなく、双方の益になることが多い、とでも云えるだろうか。そしてまた、国際貿易よりも国内の経済活動の方が規模が大きく、重視すべきはそちらだという。
 著者はどちらかといえば、「経済のグローバル化」という概念にあまり重きを置かないようだ。そうすると、今さかんに言われている「経済のグローバル化」批判は、著者はどう判断するのだろうか。
 以上とはあまり関係がないのだが、素人たる自分の気になることを呟いておけば、日本などではもう物が満たされすぎて、消費されるものが減り、それによって経済が縮小して、慢性化した不況に陥る可能性があるのではないか、という気がしてならない。現在の不況はそうではないかも知れないが、将来は必ず、そういう日が来るのではないか。そうすると、それに対する手段というのは、本当に存在するのだろうか。まあそういう問題は、既に経済学の範疇にはないかも知れないが。
クルーグマン教授の経済入門 (ちくま学芸文庫)

クルーグマン教授の経済入門 (ちくま学芸文庫)