ポリーニのバッハ、平均律第一巻のディスク

バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻

バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻

ポリーニはバッハを、演奏会では弾いていたにもかかわらず、今まで録音してこなかった。その意味でも、また最近になってますます進境著しい彼のことであるから、待望のディスクだといえる。
 そして、期待は裏切られなかった。いつものごとく明晰で、明るく美しいバッハになっている。(ペダルは多めに使われている。)冒頭の前奏曲はきわめてやさしい曲だが、このやわらかい美しさは、リヒテルと双璧だろう。全体の印象としては、表現の幅がますます広くなっている、ということだ。これは、極端から極端へという意味ではなく、微細なニュアンスの弾き分けが、見事だというのである。とりわけ、前奏曲がこれほど多様な音楽だというのは、この演奏を聴いていると驚くほどだ。個人的には例えば第12番の前奏曲が好きなのだが、このさみしさを表現して、初めて納得する演奏に出会えた。
 総じて、これまでのグールド、リヒテルグルダなどの名盤を超えるものと言いたい。おそらく、これから繰り返し聴くディスクになると思う。第二巻も楽しみだ。

追記

最近聴きなおしていると、ポリーニの音楽の作りのうすっぺらさが気になる。かつてはこんなことはなかった。あれだけ重層的な、音楽語法的に完璧な演奏を作り上げていたのに。既に伝統が軽い。(12/1記)
いや、そうとばかりも云えないか。この演奏の評価はむずかしい。素晴しいと思う時もある。(12/8記)